自転車保険を義務化する自治体は、着実に増えています。
国土交通省の調べでは、2023年4月時点で、自転車保険を義務化する自治体の数は32都府県1政令市にのぼり、10道県は条例によって「努力義務」を定めています。今後自転車保険を義務化する自治体は増加する可能性は十分あるでしょう
そこでこの記事では、自転車保険の概要について、わかりやすく解説します。自転車に乗るすべての方にとって、必須の情報です。
自転車保険の加入はどうして義務?
自転車保険への加入を義務付ける自治体が増えている背景には、全国的に発生する自転車事故があります。自転車事故による損害から、加害者と被害者の双方を守ることが、自転車保険の義務化の目的です。
例えば内閣府がおこなった調査によれば、人口10万人当たりの交通事故死者数自体は、減少傾向にあります。ところが自動車乗車中の事故は、依然として高い水準を維持しているのが懸念される点です。
(画像出典:内閣府)
自転車乗車中の事故により死亡もしくは重傷を負う件数は、減少してはいるものの依然として高い数字を維持しています。
(画像出典:内閣府)
自転車は、免許を取得せず気軽に乗れる便利な乗り物として、幅広いシーンで活用されています。その反面で、世界各国と比較しても、日本は自転車乗車中の死亡事故の発生件数が特に多く、問題視されています。
(画像出典:内閣府)
便利な乗り物である自転車は、体を保護するものが何もない状態で乗車します。事故になった場合、運転者自身が大きなケガを負うことは少なくありません。自分自身が生涯加療の必要な状態に追い込まれることも推測されます。
また自転車はスピードが出る乗り物です。甚大な被害の加害者になり、莫大な金額の損害賠償を請求されるケースも多数報告されています。
自転車に乗車するとは、計り知れないほど大きな損害を被る可能性と隣り合わせの状態に置かれることと同義です。そしてこれらのリスクを最小限に留めるための対策として講じられた策が、自転車保険の義務化であるといえます。
自転車保険加入が義務の自治体一覧と罰則
「私の住んでいる県では、自転車保険への加入は義務化されている?」
「自転車保険に加入しないと、罰則はあるの?」
自転車保険への加入を義務もしくは努力義務としている自治体について、また加入義務を怠った場合の罰則について、確認していきましょう。
自転車保険が義務の自治体はどこ?
2023年4月1日現在、自転車保険への加入を義務付けている、もしくは努力義務としている自治体をまとめたものが、下の表です。
自転車保険の加入を義務化 | |
東北地方 | 宮城県・秋田県・山形県・福島県 |
関東地方 | 栃木県・群馬県・埼玉県・千葉県・東京都・神奈川県 |
東海地方 | 山梨県・長野県・新潟県・静岡県・福井県 |
近畿地方 | 滋賀県・京都府・大阪府・兵庫県・奈良県 |
中国地方 | 広島県・岡山市* |
四国地方 | 香川県・愛媛県 |
九州地方 | 福岡県・熊本県・大分県・宮崎県・鹿児島市 |
* 岡山市は、県に先んじて義務条例を制定済み
(出典:国土交通省「自転車損害賠償責任保険等への加入促進について」)
自転車保険の加入を努力義務化 | |
北海道地方 | 北海道 |
東北地方 | 青森県・岩手県 |
関東地方 | 茨城県 |
東海地方 | 富山県 |
近畿地方 | 和歌山県 |
中国地方 | 鳥取県 |
四国地方 | 徳島県・高知県 |
九州地方 | 佐賀県 |
(出典:国土交通省「自転車損害賠償責任保険等への加入促進について」)
自転車保険に加入していない場合の罰則
2023年6月現在、自転車保険に加入せずに自転車に乗車しても、特別な罰則はありません。
自転車保険加入の証明書類を携帯するなどの仕組みは、未だ確立していません。また自転車保険は家族でまとめて加入できるため、自転車保険に加入しているが、自転車に乗車する本人は加入しているか否か把握していない、といったケースもあるでしょう。
自転車保険に加入していることをチェックする仕組みがないため、加入していなくても罰則がないのが現状です。
しかし2015年10月に、兵庫県が自転車保険への加入を日本で初めて義務付けたのを皮切りに、ほかの自治体でも自転車保険を義務付ける流れは拡大しています。法の整備が整うに従って、罰則規定が設けられる可能性が十分にあるでしょう。
自転車事故の高額賠償金請求例
自転車事故が発生した場合、どれほど大きな金額の損害賠償を求められるのでしょうか。
一般社団法人日本損害保険協会が公表している高額賠償金請求の事例には、次のようなものがあります。
加害者が支払いを命じられた賠償金額 |
事故の概要 |
6,779万円 |
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9,266万円 |
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9,521万円 |
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自転車による事故が発生した場合、重篤な後遺症や死亡といった取り返しのつかない損害を被害者に与えることが多々あります。裁判では、高額の賠償請求を求める判決がくだるケースは少なくありません。
しかし数千万円にもおよぶ損害賠償金を、個人が支払うのは困難を極めます。
こうしたリスクを最小化するために、多くの自治体が、自転車保険への加入を義務付けています。まだ自転車保険が義務付けられていない自治体にお住まいの方であっても、万が一の備えとして、自転車保険への加入は検討するとよいでしょう。
自転車保険を選ぶときのポイント
自転車保険に加入する際は、保険の補償対象を確認し、過不足のないプランに加入する必要があります。知らずに加入すると損することもあるので、注意が必要です。
ここでは、過不足のない自転車保険に加入するためにチェックしたい4つのポイントについて、解説します。
保険の種類は2つ
自転車保険に加入する際は、個人賠償責任保証がついたものを選んでください。
自転車保険が補償する対象には、次の2種類があります。
- 個人賠償責任保険
- TS(Traffic Safety)マーク付帯保険
それぞれの違いをまとめたものが、下の表です。
自転車保険の種類 | 概要 | 補償の対象 | ||
事故の相手 | 自分 | |||
命・体 | 財産 | 命・体 | ||
個人賠償責任保険 | 自転車に乗る個人が加入する保険 | 〇 | 〇 | × |
TSマーク付帯保険 | 自転車に付される保険 | 〇 | × | 〇 |
結論をいってしまうと、自転車に乗るなら、個人賠償責任保険は必須です。個人賠償責任保険に加えてTSマーク付帯保険に加入すると、より安心です。
しかしTSマーク付帯保険だけ加入して個人賠償責任保険に加入しないのは、おすすめできません。
個人賠償責任保険は、自転車に乗る個々人が加入する保険です。自転車を運転している際に他人にケガさせた場合が、支払いの対象となります。個人賠償責任保険は、被害者に対する補償をカバーする保険です。自分自身が負ったケガなどの補償も付与したい場合は、別途傷害保険をつけることもできます。個人賠償責任補償と傷害保険がセットになっているのが一般的です。
保険のプランによって、個人賠償責任保険以外の名称で販売されていることが多々あります。補償内容などが記載された欄に「個人賠償責任特約」「日常生活賠償責任特約」と記載されていれば個人賠償責任保険ですので、ご確認ください。
一方のTSマーク付帯保険は、自転車に対して付帯される保険です。TSマーク付帯保険が付された自転車で事故を起こした場合は、誰が乗車していても補償を受けられます。ただし補償期間は1年に限定されており、補償金額の上限がある点にも注意が必要です。
例えば、個人賠償責任保険に加入している場合、TSマーク付帯保険が付された自転車に乗っていなくても、万が一の事故の際は補償を受けられます。しかし個人単位で加入する保険であるため、家族全員が自転車に乗る場合は、家族それぞれに加入しなければならない点にご注意ください。
また、TSマーク付帯保険が付された自転車であれば、誰が乗車しても事故の際は補償が受けられます。しかし補償額が個人賠償責任保険より低い傾向があるため、保険だけで補償しきれない可能性がある点は否めません。
個人単位で加入する手間やコストは弱点ですが、高額の賠償にも耐えられる個人賠償責任保険に加入し、プラスアルファで自転車を点検した際にTSマーク付帯保険に加入すると安心です。
支払い限度額は1億円以上を想定
個人賠償責任保険に加入するなら、支払い限度額が1億円以上の保険を選んでください。
自転車事故は人命に関わるような大事故につながるケースが多く、高額賠償を求められるケースが後をたちません。賠償金が、9,000万円を超える額となった裁判例もあります。
補償額と保険料は比例しており、補償額が上がるほど保険料も高くなります。保険料と補償のバランスを考慮するなら、万が一の場合に備えて、補償額は1億円以上を想定するとよいでしょう。
示談交渉サービスがついているか
自転車保険を選ぶ際は、示談交渉サービスが付帯している商品を選ぶことも大切です。
示談とは、事故の加害者と被害者が話し合いによって事故解決をはかることです。裁判にせず、損害賠償額や支払い方法について、話し合いによる合意を目指します。
自転車事故が発生した場合、事故解決に向けて相手との交渉が最初の課題として加害者にのしかかるのが、示談交渉です。しかし事故の当事者同士が冷静に話し合うのは、困難を極めます。
また保険で補償できる賠償額は、法律で定められた額までと定められています。当事者同士の交渉で決めた賠償額を、客観的に損害額を確認できる領収書や診断書、見積書などの必要書類が足りない場合、さらに当事者同士で決めた賠償内容が法で定める基準を逸脱している場合は、保険でカバーできないこともあります。
そこで活用したいのが、自転車保険に付帯した示談交渉サービスです。当事者に代わって、保険会社が相手方や相手の保険会社と交渉した上で、示談書の作成・送付まで請け負います。
自転車による交通事故が発生した場合、事故解決に至るまでには、状況の確認、損害の確認、書類の作成、示談交渉とさまざまな手続きが発生します。示談交渉サービスを利用して、自転車事故後に発生する負担を軽減することが欠かせません。
二重加入に注意、加入済みでないかを確認しよう
自転車保険の保険内容がほかの保険と重複していないか、ご確認ください。
例えば個人賠償責任補償は、火災保険や自動車保険、クレジットカードに付帯している保険で加入しているケースがあります。
補償内容が同じ保険に重複して加入しており、かついずれかの保険の保険金額が無制限の場合は、重複している保険からは保険金が支払われません。保険料を支払ったにもかかわらず補償が受けられないのでは、損失は免れないでしょう。
自分ではなく家族が加入した保険で、自分も個人賠償責任補償の対象になっているケースもあります。自転車保険に加入する際は、自分も含めた家族全員がすでに加入している保険の内容を確認の上、二重加入になっていないかチェックしてください。
自転車事故を防ぐには?交通マナーを把握して安全に!
自転車は、道路交通法で軽車両に位置付けられています。つまり自転車は車の一種です。しかし自転車にも遵守すべき交通マナーがあることは、あまり知られていません。
自転車による交通事故を未然に防ぐため、また事故になった際に法令違反による大きな責任を問われる事態を回避するために、自転車にまつわる交通マナーを確認しておきましょう。
車道を左側通行が基本!
軽車両である自転車で走行する際は、車道を走行するのが基本です。また車両と同じように、左側通行しなければなりません。
しかし交通量が多い、車道と歩道の間である路肩が狭いなどの理由で、歩道を走らざるを得ないこともあるでしょう。最近では歩行者優先通路として、自転車も歩道を走行できるようにしていることもあります。
こういった場合は道路標識を確認しながら、車道側を走行してください。このとき、徐行運転、つまりゆっくり走行することを徹底します。あくまでも、歩道は歩行者のために用意された道です。歩行者を優先しながら、安全に自転車で走行してください。
道路を横断する際のルール
自転車で道路を横断する場合は、横断歩道を渡ってください。
自転車横断帯がある横断歩道の場合は、自転車横断帯を利用して道路を横断します。これは道路交通法第63条の6にも定められているルールです。
なお自転車横断帯がない場合は横断歩道を使いますが、歩行者がいる場合は自転車を降りて渡らなければなりません。歩行者が歩いている横断歩道を、自転車に乗車したまま渡ることは禁じられています。
飲酒運転・イヤホン着用・スマホ操作は禁止
車を運転する際に禁止されている事項は、自転車に乗車する場合においても同様です。
具体的には、次のようなものがあります。
- 飲酒運転
- イヤホンを着用しての運転
- スマホで通話もしくは操作しながらの運転
安全な自転車走行を脅かすような行為をしないよう、十分ご注意ください。
ライト・反射板は必須!定期的な点検を
自転車で公道を走行する際は、道路交通法第52条第63条9により、次の3点が必須とされています。
- ブレーキ
- ライト
- 反射板
また夜間走行する際は、ライトの点灯、反射板の装着、テールライトの利用が必須です。違反した場合は、5万円以下の罰金が課されます。
自転車での走行中に、ライトがつかないなどの不具合が発生しないよう、定期的に点検してください。
なお東京都や埼玉県など一部地域では、警音器(ベル)の装備が無い自転車は整備不良として罰則対象となることが、条例で定められています。
また歩道を自転車で走行する際、むやみにベルを鳴らすことも禁止事項です。歩道には歩行者優先の原則があります。危険を知らせる場合を除いて、ベルを鳴らすことは許されていません。
自転車に関する条例は、自治体ごとに異なります。安全に自転車に乗るために、お住まいの地域の条例を確認しておくと安心です。
ヘルメットを着用しましょう
自転車で公道を走行する場合は、ヘルメットを着用してください。
道路交通法第63条の11の改正により、自転車に乗るすべての人に対して、ヘルメットの着用が義務付けられました。これは2022年4月27日に公布、2023年4月1日より施行されています。
2023年6月現在は、ヘルメットの装着は努力義務のため、違反した際の罰則はありません。しかし今後の法改正に伴い、罰則規定が設けられる可能性があります。
例えば原付バイク(原動機付自転車)の場合、現在はヘルメットの着用を怠ると、厳罰に処されます。しかし法の整備前は、ヘルメット着用は努力義務であるとして、罰則規定はありませんでした。ところが努力義務となったおよそ10年後に、厳罰が課される現行法へ改正され、現在に至ります。
自転車には、車と違って体を保護する装備がありません。万が一にも事故になれば、相手だけでなく、自分自身もダメージを負います。頭部を保護することで命の危険から身を守る意味でも、ヘルメットを着用することが大切です。
詳しくはこちらの記事を参照ください。
まとめ
自転車保険は、ほとんどの自治体で加入が義務付けられています。安心して自転車に乗るために、自転車にのるすべての人が加入したいのが自転車保険です。
自転車保険に加入する際は、次の4つのポイントをチェックしてください。
- 個人賠償責任保険は必須
- 支払い限度額は1億円以上が目安
- 示談交渉サービスがついた保険を選ぶ
- 自転車保険の二重加入に注意
また道路交通法に違反しないよう交通マナーを遵守しながら、便利な乗り物である自転車をご活用ください。